株式会社 構造ソフト

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■偽装事件とその後の新法の運用について


大臣認定プログラムの現状と今後
〜新法の運用とプログラムの対応/中間報告〜

[印刷用] 【PDF 210KB】
2007年3月22日(木)
株式会社 構造ソフト
代表取締役社長 星 睦廣




1.始めに

 偽装防止等を目的とした新しい法令が6月20日に施行されます。

 短期間での法令改正を余儀なくされたため、計画通りに進んでいないこともあり、対応が間に合うのか間に合わないのか、情報が錯綜しているのが現状です。

 つきましては、現時点で知り得る情報を、予測を交えて整理しましたのでお知らせ致します。


2.プログラムの性能評価と大臣認定の取得時期

 当初、国交省の予定では、新しい大臣認定プログラムのための性能評価申請の受付時期は、本年3月でした。そしてこの時期は、法令施行と同時に大臣認定プログラムの運用も始める絶対条件であったため、この時期だけは動かせないものでした。しかし様々な事情により、それが先日延期になりました

 このことにより明らかになったことは、6月20日の法令施行時には、性能評価を取得したプログラムも無ければ、大臣認定を取得したプログラムも存在しないということです。つまり非認定プログラムにて新法の運用が始まり、しばらくこれが続くというものです。

 このことから、性能評価を取得できる時期は早いプログラムメーカーで夏から秋ごろになり、大臣認定プログラムは、年内中に取得できるメーカーが数社あるのではないか、と言ったところです。

 大臣認定プログラムが無く、非認定プログラムだけの運用で問題が生じないかと懸念する向きもあるかもしれませんが、非認定プログラムだけの運用で問題なく、偽装防止策等が完全に機能します。

 ただし、ここでいう非認定プログラムの定義は、新しい大臣認定の仕様を満たしながら、さらに大臣認定プログラムの適用範囲を超えた機能(断面算定機能や多剛床等々)を持つ拡張されたプログラムを指します(以下「拡張非認定プログラム」と呼びます)。

 大臣認定プログラムでなく、拡張非認定プログラムにより新法がスタートすることは、特定なプログラムを大臣が認定する日本独特の制度が何ゆえ必要なのか、その意義を明確にするためにも、このスタートは意味があるのではないかと思っています。


3.弊社は5月より新法対応ソフトの出荷を予定

 新法が本年6月20日より施行されることにより、
6月20日以降に工事着工される物件は、新しい法令告示に対応した図書で申請し、審査を受ける必要があります。

 これに従いますと、5月ごろに確認申請を出す物件は、新しい法令告示に対応したプログラムにて構造計算書を作成する必要があります。また、ある程度の規模の物件の場合には、構造計算適合性判定員(以下判定員)の審査も受けた上での許認可となるのが、基本的な新しい流れです。

 プログラムメーカーとしては、これに対応できることが望まれるため、弊社では、本年5月に新しい法令告示に対応したプログラムを出荷する予定で拡張・修正を進めております。この5月出荷バージョンは、新しい法令告示※1に対応するだけでなく、偽装防止策のもと新しい大臣認定プログラムで求められる機能※2が盛り込まれます。例えば、構造計算書の構成(目次)やチェックリストは全メーカーで統一され、審査員が図面と照合するために不可欠な断面リスト図が構造計算書内に出力される等、審査を迅速で確実に支援するプログラムとなっています。


4.間に合わないときの暫定措置

 5月からスタートができるかどうか? すなわち、検査機関側でいうなら判定員を確保し動ける状態が作れているか? プログラムメーカー側なら、メーカー各社は5月の出荷に間に合うことが出来るのか?

 これらについては、各検査機関や各メーカーでも状況はバラバラで、暫定的な運用措置が施される可能性があります。
どうなるかはまもなく明らかになりましょうが、暫定的な措置があるとするなら次のようになるでしょう(あくまで予想です)。

 もし、5月から新法による運用ができない場合は、従来のプログラムで仮申請をし、仮承認を受ける。そして6月20日前後までに新法による再計算、再提出をすることであらためて確認を受ける、というような暫定措置の方向が考えられます。

 いずれにしても、暫定措置をした物件が後々(訴訟事件に関係したときに)違法と解釈されるような暫定措置は打ち出されないでしょう。


5.非認定プログラムと大臣認定プログラムの違い

 新しい大臣認定プログラムを、新法の条文に記述されている位置づけでは理解できても、偽装防止策のもとに運用される取り扱いにおいては、拡張非認定プログラムと大臣認定プログラムの違いは無いように見えます。

 拡張非認定プログラムは大臣認定プログラムの機能を包含しているため、偽装防止策が施されており出力の改造が容易にできません。さらに判定員によるピアチェックも運用されることから、鉄壁な偽装防止が出来ると言えます。

 審査側において、これらの計算書をチェックする行為と責任は、非認定プログラムであっても大臣認定プログラムであっても変りは無いため、どちらのプログラムで提出しても、可能な限り同レベルのチェックをすることになり、その取り扱いに差が生じないと言えましょう(非認定プログラムではCDによるデータ提出と再計算は不要ですが、審査側で再計算できる環境があるなら、CDを提出することでチェックを早く済ますことができます)。

 両者に差がないとはいえ、それでは大臣認定プログラムの存在意義も薄れるため確認申請料や審査期間において、両者に差をつけることにするようです。

 この差が大臣認定プログラムのメリットになりますが、しかし確認申請料や審査期間は、確認検査機関が決めることですからその差がどうなるか流動的です。また、現状では、そのメリットより次項のデメリットが大きく、心配しているところです。


6.国の管理下のもとの課金システム

 大臣認定プログラムの取り扱いフローを鑑みると「プログラムメーカーは大臣認定プログラムを作ることは出来ても、売ることは出来ないのではないか?」と危惧を抱くような内容です。概略を以下に説明します。

 大臣認定プログラムの変更は国の管理下におかれ、全ての変更履歴を報告する必要があり、また拡張や修正するたびに変更認定作業と多額の費用がかかります。

 プログラムは生き物で常に保守し、ユーザーの方からの要望による拡張や修正を重ねて進化する宿命にあります。それを怠ったらプログラムは過去のものとなり存在価値がなくなります。

 そのような中で逐一管理されてその都度課金されるシステムは、プログラムメーカーに多大な負担を強いるばかりか、ひいては構造技術者の金額負担に繋がります。また今後、全てのプログラムを認定取得することになることから、企業の動きを全て開示することにも繋がり過剰な管理体制となります。

 このような管理は、何か問題が起こったとき不具合情報をもとに有無を言わせず摘発等ができ、都合により社会から抹殺できる要素を含んでいるから恐いです。

 この管理は他の業界ではありえないことなので、次の例えで説明します。

 放送メディアで捏造(ねつぞう)された情報が流れたのは問題として、情報発信するには国の許可が必要となり、許可にあたって審査が必要である場合は課金され、審査結果によっては情報発信の差し止めがある、ということと同じで、現代ではありえない過剰な管理制度と言えます。

 大臣認定プログラムを活かそうとすると過剰な情報開示と多額の費用を求められ、保守や拡張をやめればプログラムの衰退を招く。この扱いに対して変更要求をしていますが、変更する動きは無くプログラムメーカーは難しい選択を迫られています。


7.軽微なミスの重さと国の責任の軽さ

 人間が行う作業において、非常に稀にミスをすることがあります。例えば構造技術者の追加荷重に関する入力ミス、審査員による限られた時間での見逃し、100万行に渡るプログラムに潜む不具合というミス等々です。

 法令ギリギリの耐震性能で設計される現在では、この軽微なミスにより適法が違法に変化することもあります。その原因がプログラムなら認定取消しとなり、ユーザー全員に対して建築確認済物件への遡及も行うことがあります。

 このような軽微なミスにより違法に変る事例が起こらないように「ミスを考慮した余裕のある設計をする運用や啓蒙をしてほしい」と要請しましたが国交省は動かないようです。

 当初、新しい大臣認定プログラムとは、性能評価を厳密にしてプログラムの信頼性を高めそれをある程度国が保証するものでした。しかしその保証は曖昧になり大臣認定制度の意義も消えかかる中で、さらにミスにより耐震性に問題が生じたときは国が建物を補償することも無くなり、最近は問題が起こったら裁判で責任の所在を決めると変ってきています。

 プログラムメーカーも構造技術者も逃げ場の無い状況下におかれ、ほんのわずかなミスが命取りとなってしまう問題こそ偽装事件の教訓であり、弱者の問題として片付けないで、その改善策を見出すことが重要な目的であったはずなのに、そこに踏み込むこともなくその運用が始まろうとしています。


8.大臣認定プログラムは、社会に根付くのか?

 大臣認定プログラムが社会に根付くかどうかという以前に「大臣認定プログラムとは何なのか? 何を目的としたものなのか?」この基本的なところが、運用の姿からは汲み取れないでいるのが現状です。

 法令で決められた運用であるから、大臣認定プログラムは作られ、ユーザーの方が求めるなら市場に出るでしょう。

 ただ、一定規模以下の建築物※3では、非認定プログラムを使用した場合、確認検査機関のみの審査で済むことになるため、拡張非認定プログラムでの提出が多くなるでしょう。

 大臣認定プログラムは適用範囲をかなり狭めたものにせざるを得ず、それゆえ申請物件の1割くらいが大臣認定プログラムで、残りの9割の物件が拡張非認定プログラムで申請されることになるのではないでしょうか。

 その後、大臣認定プログラムが社会に根付くかどうかは、市場が決めることになりそうです。


9.中間報告のまとめ

 今回の法令改正は、大ナタを振るいながらも0.1%に満たない偽装物件が無くなるだけです。「人命を守る安全な建物から、資産を守る安心な建物へ」という耐震性能向上に関しては一切踏み込んでいません。

 建物という高額な資産に対する全責任を構造技術者へ委ねても、そこには明らかに無理があります。少なくとも耐震性能向上への啓蒙を国が担いながら、マンション住民や建築業会全体の意識を今までより変えるという性能向上への機運を作り出せない限り、今回の法令改正の目的は達成したとは言えません。

 重要部分を置き去りにせず、最終決定段階では拾い上げてほしいものです・・・。

 いずれにしても3月末あたりから判定員の人選も決定することになり、4月には新法に対する運用準備は急速に整うことになります。

 弱者であるプログラムメーカーや構造技術者には担い難いほどの重責が押し付けられました。もう何を言っても愚痴になりますので、元気に前に進むしかありません。

 弊社は皆様方にご迷惑がかからぬように、どのような時代にも対応できるように振舞うつもりです。

 構造技術者の輝かしい未来は少し遠のきましたが、今までよりは改善されることを期待して、皆様方の益々のご活躍と貴社のご発展をご祈願致します。

 現段階での情報と予測を私の視点で捉えて報告しました。これらの情報は、この1〜2ヶ月間でも時々刻々変化しますので、その推移にご注意下さい。

株式会社 構造ソフト
代表取締役社長 星 睦廣






※1 新しい告示(案)は、国土交通省のHPで参照することができます。
http://www.mlit.go.jp/pubcom/07/pubcomt37_.html
※2 プログラムで求められる機能は、(財)日本建築防災協会のHPで情報を参照することができます。
http://www.kenchiku-bosai.or.jp/research/shiryo.html
※3 RC造は現行のルート1相当及び高さ20m以下でルート2-1相当、S造は現行のルート1相当及び3階以下・高さ13m以下・軒の高さ9m以下でルート2相当の検証を行ったもの。詳細は、(財)日本建築防災協会のHPで情報を参照することができます(以下のPDFの10〜12ページ)。
http://www.kenchiku-bosai.or.jp/research/file/doc05.pdf


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