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■地震動応答解析のおはなし
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第4話 「地震の強さはガルかカインか?」


中沢: 「島課長、阪神大震災は大変な被害を及ぼしましたね。」
島課長: 「近年なかった大災害になったね。」
中沢: 「前回、共振作用の話は、大変参考になったんですが、今回の神戸地震の地震波の性質としてはどうですか?」
島課長: 「神戸地震波の応答スペクトルを描くと、やはり周期が0.3〜0.6秒で最も卓越している傾向にあるね。」
中沢: 「ということは、今回の地震もEL CENTRO地震波と同様に5階〜10階の建物 に対して厳しい波形だったと言えますね。」
島課長: 「まったく、その通りだね。」
「さて、中沢君、今回の地震に関して何か質問があるかね。」
中沢: 「いやまったく、私の方が質問ぜめにあっていますよ。もちろん一般の人からの 質問なんですが、建築関係の仕事をしているということで・・・。」
島課長: 「質問の内容は、『私の住んでいる建物は、大丈夫ですか?』というようなことだね。」
中沢: 「そう、そうなんです。ただ困ってしまうのは、ガルという言葉がでてくるんですよね。」
島課長: 「ガルは、加速度計で得られた地震波の単位のことで、cm/s2と言うことは知っているよね。」
中沢: 「はい。そこまでは知っています・・・。 なにが困るかというと、『600ガルの地震波にこの建物は耐えられますか?』とか、『800ガルではどうですか?』ということなんです。」
「今まで静的に取り扱っていたので、それが何ガルに相当していたのか?などと いうことはほとんど気にしていなかったし、また新耐震の本のどこにも何ガルに相当するか、など書いていないですよね、課長。」
島課長: 「う〜ん。そうかも知れないねェ−。」
「ただ、必要保有水平耐力の説明のところで次のように言っているね。 関東大震災クラスを大地震の目安にしていて、その時の最大加速度は、だいた い300ガルから400ガルと推定されているとね。 当時は加速度計が設置されていなかったから、あくまでも推定値としているん だよ。一般の人も、新聞等で騒がれているからガルなどの専門用語もよく知っ ているんだね。」
中沢: 「そうなんですよ。まったく、たじたじですよ。」
島課長: 「おいおい。専門家がそんな弱気では困るねェ−。」
中沢: 「そこで、もう少し教えてほしいんですが、今回の阪神大震災は800ガルを超 える値が観測されたとありますから、関東大震災の300ガルから400ガル と比較して2倍以上の力が作用したことになるんですよね。」
島課長: 「単純にそうは言えないんだ。」
中沢: 「えっ!単純に考えられないんですか?うっそ〜。」
島課長: 「おいおい。言葉使いに注意してよ。」
中沢: 「すみません。でも課長、私の記憶が正しければ、地震波による力は 質量×加速度(mα)ですから、地震力は加速度に比例するはずですよね。」
島課長: 「それでは、少し話を整理してすすめようか。 まずは、地震波計より800ガルの最大加速度を記録したとする。この加速度はどこで観測されたものかだ。」
中沢: 「神戸海洋気象台でしたか。」
島課長: 「その場所の地表面での加速度か?地下階か?又は最上階か?ということを知ら ないといけない。 この場合は、おそらく地表面の加速度地震波だろうと思うけど。建物の最上階 で観測されたとすると、それは応答加速度ということになる。」
中沢: 「1階に入力される地震波の加速度と、最上階に働く応答加速度は、どちらが大 きいんですか。」
島課長: 「当然最上階の応答加速度は大きいと考えていいね。一般的には、建物が弾性挙動するとして、入力地震波の最大加速度の2.5倍 から3倍の応答加速度になると言われているね。 もちろん、建物の固有周期が長くなれば、この倍率が小さくなるので一概に言えない話しとしてだけど・・・。東北大学の9階建(SRC造)の研究棟で実測された例だと、最上階の最大加 速度は、1階のそれの約4倍になっていたね。」
中沢: 「そんなにあるんですか。課長のおっしゃることがわかりました。加速度の大小を考えるときは、まず地表面の地震波か応答加速度かを明確にしなさいということですね。」
島課長: 「そういうことだね、次に・・・。地震波の最大加速度と地震の強さは比例するかということだけど・・・。」
中沢: 「そう、そこですよ。さきほどは、最大加速度と地震の強さは比例しない口振りでしたね。もう少し詳しく教えて下さい。」
島課長: 「阪神大震災での800ガルも大きな値だけれど、それを超える地震波もいろいろ観測されているんだ。」
「例えば、1993年の釧路沖地震で920ガル、1993年の北海道南西沖地震で1576ガル、1994年のロサンゼルスの地震で1764ガル、いずれも阪神大震災のような壊滅的な被害はなかったね。」
中沢: 「最大加速度と被害は、比例しないとのことですね。」
「しかし、ますますわからなくなってきました。と言うのは、地震波の最大加速度として千数百ガルとすると、建物の応答加速 度はさらに数倍の加速度になる。例えば、その応答最大加速度として3000ガルが生じたとしても、これは普通でない力が働いていることになりますよね。」
島課長: 「力としては大きいね。」 中沢君がさきほど言っていた力と加速度の関係についてだけど、
力と加速度の関係式
ここでwはその階の重量、gは重量加速度980cm/s2だから
力と加速度の関係式
となる。α=3000ガル(ガル=cm/s2)とすると
∴ F≒3w
これは何を意味しているかわかるかな!」
中沢: 「わかりました。通常水平震度0.2で計算しているところがその15倍の水平震度3という力が加わっていることですね。」
島課長: 「水平震度という言葉、よく出たね。新耐震設計法の必要保有水平耐力の考え方 として、標準せん断力係数Coを1以上にしなさいとなっているよね。 このCo≧1とは、一質点系で考えた場合の応答加速度、約1000ガル以上 を想定していることになるんだ。
中沢: 「なるほど、なるほど、でもどんどんわからなくなってきました。1000ガル以上の応答加速度を想定して、保有耐力計算していることはわか りました。しかし一方では、3000ガルの大きな力がかかっても建物の被害と関係はない、ということがまだよくわかりません。」
島課長: 「それは静的な力と、動的な力との違いなんだよ。」
「一次設計や二次設計は静的解析だ。すなわちじっくり力を加えている。ところ が動的解析は、あくまでその力(加速度)は一瞬間の話だ。」
中沢: 「たとえ一瞬でもその力が加わったはずですから、それなりの応力と変形はでてこないんですか?」
島課長: 「中沢君は車を持っているよね。ちょっと次のことを想像してごらん! 止まっている状態の車のアクセルをいっぱい踏んで、急発進することをね。 最初の一瞬では車はほとんど動いてないし、スピードもゼロに等しいね。 最初の加速度を維持して何秒かたつと車のスピードもどんどんあがってくる。移動距離も増すわけだ。すなわち車の仕事量としてはその加速度の大きさだけでなく、それをどれだけの時間持続したかということに比例するんだ。 つまり(加速度)×(それを持続した時間)これが動的なエネルギーの大きさ と言うことになるわけだね。」
中沢: 「どんなに大きな力でも一瞬しか作用しなければ、相手(建物)にエネルギーを伝えることはできないということですか。」
島課長: 「そのとおりだね。」
中沢: 「最大加速度だけでは、その波形のエネルギーは読みとれないとすると、何で計ればいいんですか。」
島課長: 「(加速度)×(時間)は何の単位かね?」
中沢: 「加速度(cm/s2)に時間(s)を掛けると、速度(cm/s)になりますね。」
島課長: 「そこだよ、速度波形がエネルギーの大きさすなわち地震の強さを示すことになるんだ。 地震波も、建物に与える影響を考えるときは、最大加速度ではなくその地震波の最大速度はいくつか?と言うことが重要なんだね!」
中沢: 「最大速度はどうやって得るんですか。」
島課長: 「加速度計の他に速度計もあるね。」
「加速度波形から速度波形をつくることもできるよ。加速度波形を積分すればいいんだ。もっとわかり易く言えば、加速度波形の面積(正負を考慮して)の大きさを時間軸に対応して表すと速度波形ができるんだ。実際コンピュータで加速度波形を積分すると、誤差が生じ、零線補正等しないといけないけどね。」
中沢: 「加速度のガルという言葉はよく聞きますが、速度の大きさが重要とは知りませんでしたね。速度の単位を何と呼びますか?」
島課長: 「カイン(p/s)と呼んでいて、高層建築物の動的解析をする場合には、次の言葉で示されているんだ。」
『地震動の強さは、それらの波形の最大速度値によって基準化することを原則とする』
中沢: 「うーん?速度が大事な要素であることはわかりました。特に高層建物で、速度を基準に地震波を考えているんではなおさら重要なんですね。課長、今までの話しはよくわかりました。さらに理解を深めるために、もっと具体的に分かりやすい例で教えてください。」
(星 睦廣)


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