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■連載コラム(5)


「構造計算書偽装事件の社会的背景と耐震性能のほんと!」
〜21世紀にふさわしい耐震性能のマンションとは?〜


5. 既存マンションの耐震性能を知る

5.1. 1981年以前のマンションの耐震性能

 1981年に法の大改正があり新耐震設計法が施行されました。そこで大地震時の倒壊シミュレーションが追加検討されるに至ったわけですが、それ以前の1981年末までに入居できたマンションは、大地震時の検討をする必要が無かったため、その検討は(ほとんど)されておりません。

 大地震時の検討がされていないということは、耐震強度が1.0以上なのか、それ以下なのか何もわからないということになります。
 よって中地震時の検証は満足していても、大地震時の検証は、耐震強度が1.0未満になることはありえる話です。

 このように耐震性能の低い建物が大いにあっても、当時の法は犯していないので、違反建築物ではありません。しかし現行法に照らし合わせると適合していないため既存不適格建築物と呼ばれます。そして阪神淡路大震災時には、これらの建物は大破したものも少なくなく、(当然のことのように)自己責任で対処させられた建築物なのです。

 現在、この既存不適格建築物の戸数は、(木造を含めないで)380万戸とも言われ、一棟50戸換算で、およそ7万6000棟のアパート・マンションに相当します。

 以上の事情があるため、国土交通省は先日2006年1月13日(阪神大震災から11周年目)に世界最大級の振動台に、1970年代を想定した6階建の実物大マンションを造り震度6強の振動実験を行いました。その映像はニュースで流れましたので見た方も多いと思われますが、1階の柱は大破したものの建物の倒壊には至りませんでした。大破した柱は鉛直力を支えることもできない状態の破壊で、恐らく修復して再利用できる建物ではないと思われます。しかし倒壊を免れたわけですから、(最近の耐震性能と同等クラスで)1981年以前の建物でも安心してくださいと暗に語っているようで、大多数の方はそのように受け止めたのではないでしょうか。

 ただこの映像結果を持って安心だと解釈するのは早計です。
 なぜなら建物は一棟、一棟手造りのため同じものがなく、それゆえ結果も違ってくるため、前述した7万6000棟の中の一棟の例を実験映像で見せたということです。

 また、うがった見方をするつもりはありませんが、1970年代の建物を想定するときに「倒壊する建物」を想定して実験例とするのか、「倒壊しない建物」を想定して実験例とするかは、今の技術をもってすればコンピュータによるシミュレーションで事前に予測出来るものです。この実験の映像を見せて国民へ何を伝えるのかで、どちらの例を選ぶかが決定されたとしても不思議はありません。

 (最新の情報をここに追記しますと、「日経アーキテクチュア」2006年3月27日号のp74によると、この実験棟の耐震強度は1.01とのことですので、1982年以後の新耐震設計法のもとで設計した建物といってもよいものでした。)

 このように情報の見せ方、伝え方により、その受け止め方に大きな差が出ます。

 映像は全てを物語っているように思いがちですがそうではありません。目で見ているだけでなく同時に頭で考えながら見ているわけです。それゆえニュースは「耐震実験をしました」との説明だけで映像を流します。そこでは専門家による適切な解説がないため、自身の頭で好き勝手に映像を解釈しながら見てしまうことになり、専門的な映像ほど誤った解釈をしてしまう危険性が存在します。

 1981年以前の建物について語るのは大変難しい問題であることは確かで、私が述べられるのはここまでです。

 後は建物1棟1棟の条件が異なるため個別の話となり、国が個人の責任としていることから、マンション住民がどう考えるのか、例えば調査して悪い結果を聞くより知らないほうが安心とのことで何もしないのか、調査をしてその補強にどのくらいの金額がかかるか概算できるところまで進めましょうとか、これらを住民が多数決で決めることになります。いづれにしても、この問題は自己責任の範囲として住民に預けられていると言うのが現況です。

 ただ、国や地方自治体もこの問題を重く受け止め始めており、東京都は個人資産に関して一切お金を出さない考えでしたが、2006年4月から3年間を目標に特別予算を組み、1981年以前の共同住宅に関して補助金を出す計画があるようです。他の地方自治体も同様な計画があると思われますので、確認の上このような時期の補助金を利用することをお勧めします。


5.2. 1982年以後のマンションの耐震性能

 1982年以後に入居できたマンションは、人命を守る耐震性能を保有しています。
また、建物という資産価値を大地震時にどこまで損なわないのかは、建物個々に異なりますので、専門家(構造設計者)に聞く必要があります。

 計算書偽装事件の建物は耐震性能が法でいう最低基準を下回っており、倒壊の恐れがある点で住民を不安にさせました。
それゆえ計算書偽装とは関係の無いマンションの住民までが不安になり、「自分が住むマンションはどのくらいの耐震性能ですか?」と問合せした方も少なくありません。

 耐震性能を知る簡単な方法は、マンション販売業者へ「耐震強度はいくらですか?」と問うことです。1982年以後に入居できたマンションは、ほとんど耐震強度の検討をしていますので、構造計算書が残っている限りすぐに回答できるものです。

 また構造設計者が同席のもと住民の質問に答えてくれるなら、事前に次の質問を出したらどうでしょう。

@ 大地震のときに柱や梁・壁の損壊状態はどの程度になりますか?
A 大地震時の損壊に対して修復するときは、凡そどのくらいの金額がかかりますか?

 構造設計者なら@の質問にはすぐ答えられますが、一般の方に説明したときの反応等を考えるとどのような答え方が適切か悩むであろうと想像します。2つ目の質問ですが、この質問に即答できる構造設計者はいないでしょう。なぜならこの辺の質問を受けたことがないためです。マンション購入者が購入時にAのような質問をするなら、構造設計者はそのような検討をしていたでしょうが、質問が皆無だったため、Aのような金額を検討する話が机上に出ることもなかったわけです。

 少なくとも住民の皆さんと構造設計者が会話する場面は、今までありませんでしたので、そのような場をつくれることはとても意義があります。構造設計者がどのような方で、どのような考えで構造設計をしていたのか、様々な質問のもと会話をするだけでも、信頼のおける構造設計者であったかを肌で感じることにもなり、安心に繋がることでしょう。


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