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■連載コラム(3)


「構造計算書偽装事件の社会的背景と耐震性能のほんと!」
〜21世紀にふさわしい耐震性能のマンションとは?〜


3. 倒壊するまでの解析を行う構造設計者

3.1. 計算書偽装事件と耐震性能

 地震時や台風などの暴風時、そして積雪時に建物が倒壊しないように柱・梁・耐震壁の大きさ等を設計する人を構造設計者と呼びます。特に風よりは地震の方が一般の建物では大きな力が作用するので地震時の検討が重要になります。
 
 構造設計者は、建物が地震によって倒壊するまでの解析をコンピュータを使って日夜計算しています。なにゆえ、倒壊するまでの解析をするかと言うと、法では、大地震時に倒壊してはいけないと定めているため、倒壊しないことを確認するためにシミュレーション(コンピュータによる数値実験)をしているわけです。

 今回の計算書偽装事件で国土交通省は次のような発表をしました。
 「耐震強度(Qu/Qun)が0.31のため震度5強で倒壊の恐れ」と。

 「耐震強度」という用語は、マスコミが作り出した言葉で、国土交通省や構造技術者はこの言葉を使いません。正確には『(Qu/Qun)=(保有水平耐力/必要保有水平耐力)』という比率で表されます。またこの意味を正確に表現すると一般の人には理解できないため、正確性に欠けますが次のような数行で意味するところを表現してみます。

 倒壊シミュレーションにて「倒壊するまで建物が地震に耐える能力」すなわち『建物の耐力』がわかります。一方地震により建物がゆれる事で建物に『地震力』が作用します。この『地震力』と『建物の耐力』が同等な力であるなら、この地震で建物は倒壊寸前で止まることになります。このとき建物の耐震性能は、「耐震強度=1.0」と呼んでいます。

 このように「耐震強度=1.0」とはまもなく倒壊する状態ですから、柱・梁・壁に少なくない損壊が発生していることを意味します。

 ここで「まもなく倒壊する」との表現は言葉を変えれば「倒壊が始まっている」とも解釈できるのではないか、と心配するかもしれません。これは柱・梁の部材強度や設計式に安全率を少し加味しているため、計算値より実際は安全側(丈夫な方)になるとお考えください。

 もし、『建物の耐力』が、『地震力』の1.5倍あるなら、「耐震強度=1.5」となり、1.0よりは性能は高く、損傷度合いも軽減された状態になります。

 国土交通省が発表した問題の建物では、1.0を下回り0.31のため、大地震がきたら倒壊することになります。 むしろそれより小さい震度5強でも倒壊の恐れがあると発表したわけです。


3.2. 中地震時と大地震時の検討

 ここで構造設計者がどのような計算をしているか簡潔に示しましょう。
 主に次の2点について検証しています。
 @「中地震に対して、建物が損傷しないこと」の検証。
 A「大地震に対して、建物が倒壊しないこと」の検証。
  Aの検証とは、耐震強度を最低でも1.0とし、それ以上になるように構造設計することを意味します。

 ここで「中地震」とは震度5弱から震度5強
あたりを想定しています。
 「大地震」とは震度6強あたりを指し、関東大震災や阪神淡路大震災級の地震を指します。
※ 震度5強: このような震度階の表現は、一般の方に地震のゆれ具合を示すときに使用されますが、構造設計者は計算に係わるところでこの用語を使いません。

 1981年ころまでは、@で示した中地震の検証のみでAの大地震時の検証はありませんでした。すなわち中地震で損傷しない建物を造れば、大地震時には倒壊しないであろう、との考えによるものです。またその時代はパソコンが存在しない電卓全盛期でしたので倒壊シミュレーションをすることは現実的でなかったという事情もありました。

 そんな中、地震が発生するたびに建物によっては倒壊するものが出てきたため、1981年よりAの大地震時の倒壊シミュレーションによる検討も追加されて、倒壊しないことの確認を行うようになったわけです。この設計法を「新耐震設計法」と呼び、現在でもこの設計法は使われています。

 当時、倒壊シミュレーションをするパソコンソフトを弊社が開発し、パソコン初として販売したわけですが、建物が倒壊するまでのシミュレーションは膨大な計算処理を要するため、構造技術者から「パソコンで24時間計算を続けているがまだ終わらないのですが・・・」と言った質問や、倒壊するまでの解析のため、計算結果に対して今までとは違った工学的感覚が必要となり、構造技術者から質問が殺到しました。
 電話で対応していたのでは大変だ!とのことで解説本
を出版しました。するとこの種の本は無く、わかり易いとのことで、なんと1万冊という技術書としては大ヒットをすることになります。
※ 解説本: 「保有水平耐力入門(上・下巻)」(星 睦廣 著 建築技術 発行)

 この時期、構造設計者は大変なときを迎えていました。法の改正で作業手間は、新しく追加された倒壊シミュレーションやその習得も含めると数倍の作業が伴い、しかも構造設計料は据置ということも多く、徹夜の作業も辞さない思いで乗り越えていたときでした。


3.3. 膨大な作業と経験を要する構造設計

 安全な建物は、柱を大きくし鉄筋の量を多くすれば実現するといった単純な話ではありません。壁を多く配置して頑強に造る場合や、建物を柔らかく、しなやかに造って地震力をかわす方法、そして部材の性能を最大限に発揮させ、施工上のおさまりを良くした配筋等を考慮していきます。

 さらには建物の性能をアップすることにならない柱を大きくしても不経済な設計になるため、無駄がない最適な構造計画を追及していきます。構造設計者の役割は、依頼された目標性能に対して、その性能を発揮する建物を造ることですが、その性能を一切の無駄(ぜい肉)を除いて最適な工法で実現することにあります。

 すなわち目標性能を満足させながら最もコストが安くなる最適値を見出す経済設計を業務の目的としています。

 姉歯元建築士による計算書偽装事件において、現場での施工関係者は「おかしい!」と気が付かなかったのか?との疑問も投げかけられましたが、わからないとしても不思議はありません。

 デザインを担当する意匠設計者も、確認検査機関の方も構造設計の経験が無い限り具体的にはよくわかりません。例え構造技術者であっても、コンピュータで計算して確認してみないと明確に述べられない部分もありますが、10年以上の経験をもつ有能な構造技術者や20年以上の構造技術者ならば、構造図面を見ただけである程度おかしいところがわかるといった経験豊富な専門家のみが語れる世界なのです。


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